輝く君へ

「悠里がおばあちゃんになってるのって想像つかないな」
私が呟くと、悠里はネイルをする手を止めないまま、んー?と気のない返事をする。
放課後の教室は私と悠里しかいない。悠里が手をかざすと、西陽がカラフルな爪に反射して、おまけに彼女の金髪も風に靡いて、なんというか色がたくさんあって眩しいなと思った。
「というか__。」
おばあちゃんの悠里って解釈違いかもしれない、と言いかけてやめた。そんなつもりはないけど、曲解するとまるで早死にすることを望んでるみたいだなと思い至ったからだ。もしくは、死亡フラグを立ててるような気にもなった。
「というか?」
ようやくこっちを向いた悠里に、なんでもないよーと答える。
「桂の爪もやったげる!」
「いや今問題集解いてんじゃん」
「左だけやるからさー、右で解きなよ」
「…できるかね?」

八年前の放課後だった。

葉山悠里が死んだという連絡が来たのは2週間前。この2週間、悠里の通夜とお葬式があったりしたけど、それ以外は私は自分でも驚くほどいつも通りに日常を送っていた。まあ、高校を卒業してから会うペースは少ないときは月に1回とかだったし、2週間会わないくらい普通のことだ。いや、そういうことじゃないだろとセルフツッコミを入れながら墓石の前に立つ。
通夜でもお葬式でも私の目から涙が出ることはなかったしそんな自分にドン引きした。葉山悠里は間違いなく私の親友だろうに。親友なんて言葉初めて思ったな、とまたしてもセルフツッコミをし、何回セルフツッコミをするんだと無限ループに陥る。
当たり前だけど、間違いなく私は傷心している。
「でも、解釈一致ではあるんだよな」
さすがに誰にも言えなかったことを小さく口に出してみる。周りには誰もいないので、その言葉は風に呑まれてすぐ消えた。
解釈一致ではあるけども、そんな死亡フラグは私はあのとき折ったはずだったんだけどな。いやまあ因果なんてもちろんないけどね。
そんなことを考えていたら、全てがやるせなくなってきて、やろうとしていたことの気力が失せた。
本当は今日、葉山悠里の墓石がこんな灰色で無機質だということが許せないから、大量のマニュキアをぶちまけてカラフルにしてやろうと思っていた。冷静になったらそんなことは許されるはずがないし、悠里の家族に失礼すぎる。自分は結局ただの他人にすぎない。まあ正直悠里はカラフルな墓石の方が喜ぶぶだろうし、死者への冒涜ということで地獄に落ちても別にいいやとか思ってたけど、全部結局自分の傲慢な独りよがりだ。どうかしていた。
やることを失った私はずるずるとその場に座り込む。土は冷たいな。
「どうしようかな」
これも口に出してみた。
どうしようかな、というのは二つあって、一つは今どうしようかなということで、二つ目はこれからの人生をどうしようかなという。
二つ目に関して考える。葉山悠里がいないこれからの毎日を思うとどう考えてもつまらなすぎて思わず冷たい地面に大の字になりそうになった。
死んでしまってもいいかもしれないな。
唐突に浮かんだそんな考えはびっくりするほどしっくりきてしまった。

「楽しくないと意味ないじゃん!」
あの冬の夜、中学1年生の塾の帰り道、葉山悠里と出会った日の彼女の言葉を思い出す。忘れるはずがない、全てがどうでも良かった私の世界に色がついたあの日だ。中学1年生の私たちにとっては地毛が当たり前だったから、金色に染められた彼女の髪はこの上なく輝いて見えた。

「楽しくないと意味ないもんなあ…」
今度は自分が死んだ後について考えてみる。放任主義の両親とあまり干渉してこない(というか実家にいないので最近会ってない)兄だが、さすがに悲しんではくれるだろう。
友達からはなんて言われるだろうか。
「悠里の後を追って鳴海が死んだ」
客観的に見るとどう見てもそうなるな、違うんだけどな〜いや違くはないか…。
そう言葉にすると、とんでもない悲しい話だなあと笑ってしまう。

「それこそ一番楽しくないな…」
私たちの結末を、悲しい話にして、無意味なものなんかに、したくないな。というかできるわけがないな。
気づいてしまったので、どうしようもなくなってしまった。ぐらりとしゃがんでいたバランスが崩れてその拍子に紙袋の中の大量のマニキュアが散らばる。
「どうしようかな…」
行き場をなくしたマニキュアたちを眺める。本当は悠里の好きだったブランドとかにしたかったけど生憎覚えてなかったので楽天で適当に選んだ不揃いなマニキュアたちだ。
しばらく考えて、金色のマニュキアを墓石の前に置いて、あとは全部紙袋に戻した。

灰色の墓石と金色のマニュキアは、鳴海桂花と葉山悠里に見えなくもないから、悪くないなと思った。

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