地球滅亡ボタン

長井ほのいは天才マッドサイエンティストだ。動物が喋る薬を作れるんだから、その気になれば世界を滅亡させるボタンだって作ることができる。
「で、どうするのよ。それ」
「ご主人、天才すぎへん?」
完成してしまった赤色の世界滅亡ボタンを前に2人と1匹で腕組みをする。
「2人はどう思う?」
長井が尋ねると、まずはモリーが口を開いた。
「ウチは正直どっちでもええですわ。どうせご主人がいなかったら死んでた命ですしね。まあ美味いもんがもう食べられなくなると思うと惜しい気もあるけど、世界滅亡とかめっちゃおもろいやん。それが見られるならそれもそれで悪くないわ。」
「まあ、猫だもんね」
「種族差別よくないで」
「区別だよ、区別」
長井は人差し指を頬に当ててうーんと唸った。
「じゃあモリーはどっちでもないってことで…松セバは?」
「…いや、押しちゃダメに決まってるでしょ」
「歯切れが悪いね。もっと勢いよく捨てろとか言われると思った。」
そう言われると松本はむくれたように口を尖らす。
「だって、それかなりすごいじゃない。そりゃ押すのはダメだけど、なんか、捨てるのはもったいないっていうか…」
ごにょごにょと呟く松本を見ながら長井は再度考える。そしてしばらくしてから何かを思いついたように手を打った。
「よし、きめた!」
「ちょっと、どうするの?」
ボタンを手に取った長井に松本は身構える。長井の次の行動によっては世界は簡単に終わってしまう。ボタンが押されたら、どういう理屈で世界が終わるのかは松本にはよく分からなかったし、長井も分かっているのか不明だが、とにかくこのボタンを押したら世界が滅亡するのは事実だ。
「モリー、前作った超強化クリアケース持ってきてくれる?」
「はいよ」
モリーは棚に駆け寄ると、器用に前足を使って扉を開け、耳の間にクリアケースを乗せて持ってきた。このケースは長井の発明品の一つで、ゾウが踏み潰しても火を放っても絶対に傷ひとつ付かない。
長井はボタンを慎重に動かしその中に入れる。
「よし」
「…つまり?」
真っ赤なボタンがクリアケースの中に鎮座している。なんとなく、野獣が魔女に渡された、ガラスドームに入れられた薔薇を思い出しながら、松本が尋ねる。
「私はまだ、やりたいことたくさんあるから。これ押したらどうなるのかもすごく興味あるけど、作りたいもの全部作り終えてからでいいかなって!」
長井は満足気に腰に手を当てた。
「あ、松セバありがとね!松セバが、「押すけど今は押さない」って選択肢を教えてくれなかったら、今すぐ押してたとこだったよ」
どうやら、自分は世界を救っていたらしい、と松本は冷や汗をかいた。
長井の考えてることは、松本には想像もつかないけど、きっと彼女のやりたいことはまだまだたくさんあるはずだ。だから、しばらくは地球の安全は保たれているはず。
できるだけ長くその日が続けばいいな、と松本は思った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です